逆流が起きる、つまり投資の場が先進国に回帰する可能性も低いだろうが、世界全体の投資率が停滞し、成長格差の拡大も暫し休止する状況が三年程度は続くと見るべきかもしれない。
日本への直接の金融的影響は大きくはないはずなのにサブプライムあるいはその他の証券、貸出を合わせた損失は、第1章で見たように、アメリカとヨーロッパの金融機関でそれぞれ一五○兆円規模、日本では五〜一○兆円規模となるだろう。
この金額から判断すれば、金融を通じる日本への影響は、米欧に比べれば大きくはないはずだ。
また、金融市場の混乱も少ない。
アメリカドル、ユーロ圏ユーロ、日本円のLIBOR(ロンドン銀行間金利)三カ月物と各国のOIS(オーバーナイト・インデックス・スワップ)三カ月物との差、スプレッドを示したものである。
OISは金利のスワップであるので、元本の信用リスクを取らず、安全資産の金利と見なすことができる。
そこで、LIBORlOISスブレッドは、銀行の倒産リスクのある銀行間金利と安全資産の金利との差と見なすことができる。
各国通貨を需要するのはその国の銀行である場合が多いので、これは各国銀行の信用リスクを表していると解釈できる。
日本のスプレッドの上昇はアメリカやユーロ圏に比べて小さい。
これは、日本の金融機関の損失が欧米に比べて小さく、信用リスクの高まりが小さいことを表スワップ取引の金利であり、元本のリスクを取らないので、金利と見なすことができる。
ところが、日本への影響はアメリカ、ヨーロッパ以上に大きいと予測されている。
やや楽観的と思われるIMFの予測によれば、二○○八年と二○○九年の実質GDP成長率は、日本がそれぞれマイナス○・三%、マイナス二・六%、アメリカが一・一%とマイナス一・六%、ユーロ圏が一・○%とマイナス二・○%である。
○八年と○九年を足してみると、日本が二・九%、アメリカがマイナス○・五%、ユーロ圏がマイナス一・○%と日本の成長率が最も低い。
危機はアメリカから始まったのに日本への影響が大きい。
株価が将来を見通すと考えて、サブプライムが問題になる前の○七年六月からの各国の株価指数を見てみると、日本の下落率は主要国の中で一番大きい。
もちろん、株式市場がグローバルに連動しているとすれば、それはドルで考えるべきだという議論もある。
確かに、○七年六月から、○九年一月まで円はドルに対して四割近く、ユーロに対して四割以上上昇しているから、ドルで考えれば、日本の株価の下落率は大きくはない。
しかし、日本の損失額が小さいのに、そのインパクトは損失額の大きい国並みというのはおかしい。
前述のように、日本のサブプライム関連の損失が五〜一○兆円規模であれば、日本全体の金融機関の体力からすれば十分に耐えられる。
もちろん、個別の金融機関で問題が起きる可能性はある。
しかし、それは部分の問題であって、日本の金融システム全体が危機に陥るとは考えられない。
ただし、現在の株価の下落が、銀行の自己資本を段損し、貸し渋りを起こす可能性は残っている。
しかし、損失額が大きくて自己資本が段損するのは、他国でも同じである。
銀行保有の株式は自己資本に算入できる。
銀行は、自己資本の一定倍までしかリスク資産を持てないので、自己資本が減少すれば貸出や社債などの債券購入ができなくなってしまう。
すると、景気のよい時には株価が上昇して自己資本が増大するので貸出を増やし、景気が悪い時には逆のことが起こる。
これは景気変動を増幅することになる。
現在、景気が悪いから時価会計をやめて簿価(取得価格)で評価し、勘定の上では自己資本が減らないようにしようという声がある。
しかし、そもそも景気がよくて株価が上がっているときこそ、時価会計をやめて簿価で評価すべきだった。
そうすれば、自己資本が膨らんで景気が過熱することがなかった。
いずれにしろ、今後、銀行の規制は、景気変動を増幅しないようなものにすることが求められる。
日本における直接の金融的影響は大きくはない。
しかし、株価の下落が銀行の自己資本を段損し、貸し渋りを起こす可能性はある。
さらに、資本市場の機能低下により、社債での資金調達も困難になっている。
貸出と社債と企業の短期資金の調達手段であるCP発行残高の変化を示したものである。
銀行貸出は増加しているが、社債やCP発行は減少していることが分かる。
資本市場の機能が低下している。
一九九○年代から二○○○年代初めまで、銀行が不良債権を抱え、貸出の増加が困難になったとき、資本市場がそれを代替した。
昭和恐慌、バブル崩壊後の不況でも、資本市場が大きな役割を果たしたとされている。
しかし、今回の不況では、資本市場の機能が低下し、貸出が増加している。
だが、本来、大企業は資本市場に頼り、中小企業が銀行に頼るのが本来の姿である。
大企業については、会計監査などを行うことによって、部外者が財務状況を客観的に判断できるようになり、社債を発行して多数の投資家に購入してもらうことができる。
しかし、中小企業では、そのようなことをするコストが高い。
大企業が銀行に頼れば、中小企業の資金調達は困難になる。
実際にそのようなことが起きている。
銀行の中小企業向けと大企業・中堅企業向けの貸出を示したものである。
図に見るように、大企業向けの貸出が増大しているのに対して、中小企業向けの貸出は急減している。
資本市場での資金調達が困難になった大企業が、銀行からの借入に頼っているからである。
円高が日本企業を直撃する金融的影響には、別のチャンネルのものもある。
世界が巨額の不良債権を抱えた時に、日本がそうでもないとなれば、相対的に日本が評価きれ、日本の通貨が買われて円高になる。
また、金融危機に際して、世界各国が金融を大胆に緩和しているが、日本は金融緩和に跨踏している。
名目金利が低いので下げられないという意見がある二○○一年から二○○六年にかけて行われた量的緩和政策は、資産価格の上昇や銀行のバランスシートの改善を通じて、経済を拡張する効果があった。
世界が大胆な金融緩和を行っているときに、日本がそうしなければ円は上昇する。
日本と世界のマネタリーベース(中央銀行が経済にどれだけ資金を供給しているかを示す)の動きを示したものである(ユーロ圏はM3)。
アメリカが大胆にマネタリーベースを拡大し、ユーロ圏やイギリスが着実に拡大している時、日本は伸びていない(日本の線がアメリカと重なって見えにくいが、急増しているのはアメリカで日本は伸びさらに、日本は金融緩和に祷踏しているなかで財政を拡大しようとしている。
むしろ、日本は量的緩和の解除(解除とは中止の意)以来、ベースマネーが縮小していることから分かるように、金融を引き締めてきた。
これが金融危機に先立ち、日本の景気を悪化させた可能性もある。
財政を拡大すれば、金利が上がり、円高になる。
すなわち、財政支出を拡大するために国債を発行すれば、金利が上昇して、為替レートが上がり、輸出が減少して、景気拡大効果は望めないというのだ。
ただし、O新政権をはじめ、ヨーロッパも大幅な減税、公共事業の拡大を行っている。
全世界で財政が拡大されれば、日本だけが財政の拡大を行う場合よりも、円高になる効果は小さくなる。
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